第参章 「試し斬り」

もし今、突然戦国時代のようになり、皆が刀を持って戦わねばならなくなったとしたら…
最後まで生き残れるのは間違いなく「斬り屋」秋吉先生から手に入れた「直心刀剣」を持つ者です。
なぜならこれほどまでに斬れ、斬り続けられる刀は他に類を見ないからです。
「直心刀剣」の斬れ味はその硬さから引き出されます。秋吉先生の要求は「触れたときには既に抜けている」刀。つまり当たった時にはスムーズに既に刃が入り込んでいる斬れ味。けれど研ぎ師も逃げ出した秋吉先生の要求を満たせるのは、秋吉先生ご自身しかおられませんでした。そしてそんな硬い刀には通常の砥石では文字通り刃が立たないのです。そこでダイヤモンド砥石を使って秋吉先生自らが研ぎます。
そして「疑惑」の「試し斬り」についてです。
試し斬りで竹を何千回も斬るのは、斬りながら刃を最上の状態に研ぎ上げる為なのです。最上の斬れ味は秋吉先生の「腕とからだ」が憶えている感覚によってのみ生み出されます。何度も何度も竹を斬り、その斬れ味の反応を体で感じ取りながら自ら研ぐ。つまり「直心刀剣」最大の秘密は明かしたところで誰にも真似の出来ない、秋吉先生にしか成し得ないものだったのです。それ故に他人に話したところで理解も難しいのではと、敢えて今まで伏せて来られたところもあります。
左の画像は試し斬りにて鍛練中の「直心刀剣」河野刀匠の「石断丸」(下)。刀身には「四回目ですこし斬れる」と覚え書きが記されています。ダイヤモンド砥石にて研いでは斬るを繰り返し、四回研いだところでようやく少し斬れるようになったということです。つまりそれだけ硬い刀が「直心刀剣」と成り得るのです。五回目の研ぎと試し斬りの後に、また新たにこの覚え書きが書き換えられることになります。この刀が人手に渡るまでにはまだまだ斬らなければならないのです。そうしながらこの刀に最も相応しい、刃の角度が研ぎ出されていくのです。
今度は「斬って仕上げる」と云う事が刀を傷める事になるのではないかと云う疑問にお答えします。
大工さんが使うノミの世界にも、その道の名人と謳われる名工がいます。しかしそのどんな名工が作った傑作と云われるノミでも新品は刃こぼれします。(職人の間では捲(まく)れると云うそうです)「鉄は使って締(しま)る」のだそうです。刀とノミ、用途は違ってもどちらも同じ鉄の刃物。使わなければ斬れるようにはならないのです。ましてや「直心刀剣」は最高級の刃物。その辺のハサミで硬いものを切ったら刃が潰れて斬れなくなったと云うのとは次元が違います。つまり「斬ったら既に中古」などと云う考えは、無知故に吹っ掛けられた因縁以外の何ものでもありません。刃物は「斬らなければ斬れるようにならない」のです。斬って最上に斬れる角度を引き出すのです。その次点で欠けたり曲がったりするような刀は既に刀匠に返却されているので、「直心刀剣」として世に出る事はありません。

安いニセモノの刀が横行する昨今。高いホンモノの刀が逆に因縁をつけられたりする現状を嘆き、
ついにその秘密を公開しました。確かに「直心刀剣」は最高の斬れ味を有するだけに値段も最高レベルです。
しかしその誕生までのプロセスをご覧になって、それなら安いと云う事がご理解頂けたと思います。

さらに次の章では「直心刀剣」が他の刀と異なる、「より斬れるための造り」をご紹介します。
「直心刀剣」のすべて
 第壱章 
 第弐章 
 第参章 
 第四章 
 第五章 

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